音入れ
人工内耳を手術で埋め込んでから、大体1週間後くらいに、初めて人工内耳で音を
聞くことになる。
これを「音入れ」という。
今日はこの「音入れ」の話をしてみようと思う。
2013年7月31日に手術をして、8月5日が音入れだった。
音入れをする前の心境としては、最低でも補聴器で聞き取っていたくらいには聞こ
えるかなあ・・・というか聞こえていないと困るわってかんじだった。
8月中旬すぎに、仕事復帰を考えていたから。
補聴器時代と同じ程度聞こえていたら、仕事復帰しても何も困らない。今までと同
じようにやっていけるんじゃないか。と。
それまで、補聴器でどれくらい聞こえていたかというと、実はあまり聞こえてはな
かったらしい。1割補聴器、9割読唇くらい。
でも、1割でも聞こえているって大事なのよ。読唇が9割で済むから。
完全に読唇だけで、コミュニケーションしろっていわれるときつい。
目も疲れるし、神経も張り詰めるし。
でも、音入れして・・・初めて音を聞いたとき、補聴器くらい聞こえていたらって
いう期待は見事に外れることになる。
「今、音入りましたよ~どうですか?」
とST(聴覚言語士)さん。
「ぼーぼぼぼーぼーぼー」
としか聞こえない。何やねンこれ。
「今から手を叩いてみますね~ パンパンパン・・・どうですか?」
「ぼーぼーぼーぼぼぼぼぼぼ~ ぼぼぼぼぼぼ・・・ぼ~ぼぼぼ?」
なんということなのか。話し声も拍手も全く同じ音にしか聞こえない。
「ぼ」だけしか音のない世界にさまよいこんだような。
「あ~ちゃんと聞こえていますねえ。よかったですねえ。手術は成功ですよ。」
とSTさん。
これで成功?・・・いやいやいや補聴器より思いっきり悪くなっていますやん。
もうあからさまにがっかりした顔していたんでしょうねえ・・・。
「snowさんは補聴器による聞き取りができなくなってから、30年近くたっている
から、はじめはこんなもんですよ。これからだんだん音も分かるようになってくるか
ら大丈夫。初めての音入れでそれだけ音がわかれば上出来ですよ。」とSTさん。
もう、感動もない。久しぶりに聞く声。感激して泣くこともなかった。
人工内耳の手術・・・受けてよかったのかなあ・・・?
もうがっくりきている私と対照的に、ワクワクしている人もいた。
私の「脳みそ」である。
30年ぶりに聞く「音」!!
30年前に、めまいとともに少しずつ消えていった「音」
気が付いたらなくしてしまって、ずっと探し求めていた「音」
「音」が還ってきた!。
わたしの「音」!!
小っちゃい女の子が、お気に入りのクマのぬいぐるみをなくして、ずっと泣いて
た。そんな感じだったんだろうなあ。やっとのことで見つけ出したクマさんが、ボロ
ボロになってしまって、綿があちこちから出てて、鼻も取れかかっていて、お洋服も
汚れていて。でも、そんなこと関係ない。私のクマさん!!
そういう感じだったんだろうなあ・・と今は思う。
そうかあ、30年も失聴した状態で人工内耳なんて無理な話だったんだ。
こんなもんかあ・・・と思っている私と対照的に、「脳みそ」はものすごく貪欲に
「音」を求めていくことになる。